【保存版】科学的に外国語を学ぶ:第二言語習得(SLA)理論

「英語をただ聞き流せば話せるようになるのか?」「文法学習は不要なのか?」

多くの学習者が抱く疑問に対し、言語学と心理学の学際分野である第二言語習得(SLA)研究は、データに基づいた回答を持っています。

本記事では、SLAの歴史の中で確立された主要な理論を時系列で整理し、効果的な学習法を解説します。


1. 「インプット」こそが最重要である

時期:1970年代後半〜1980年代

主要人物:スティーブン・クラッシェン(Stephen Krashen)

現代のSLAの基礎となる最も重要な理論群です。南カリフォルニア大学の言語学者クラッシェンは、言語習得のメカニズムを以下の仮説で説明しました。

モニターモデル(Monitor Model)の核心

クラッシェンは、「習得(Acquisition)」「学習(Learning)」を明確に区別しました。

  • 習得: 無意識に言語能力を身につけること(子供が母語を覚えるプロセス)。
  • 学習: 意識的に文法ルールなどを知ること。

彼の主張は、「話せるようになるには『習得』が必要であり、教室での『学習』は発話のチェック(モニター)役にすぎない」というものです。

インプット仮説(The Input Hypothesis)

現在の能力レベルを「$i$」とした場合、習得は「$i+1$(理解可能な、少しだけレベルの高いインプット)」を理解した時にのみ起こるとしました。

情意フィルター仮説(The Affective Filter Hypothesis)

不安、自信の欠如、動機づけの低さは「フィルター」となり、脳へのインプットを遮断します。リラックスした状態でないと、いくら聞いても習得は進みません。


2. インプットだけでは不十分:「アウトプット」の役割

時期:1980年代半ば〜1990年代

主要人物:メリル・スウェイン(Merrill Swain)

クラッシェンの理論は画期的でしたが、「インプットだけで話せるようになる」という点には反証が出ました。カナダのフランス語イマージョンプログラム(授業をすべて仏語で行う)の生徒は、リスニング能力は高いものの、発話の正確さに欠けていたのです。

アウトプット仮説(The Output Hypothesis)

トロント大学のスウェイン教授は、学習者が「話す・書く」こと(アウトプット)によって初めて、自分が言いたいことと言えることのギャップに気づく(Notice the gap)と提唱しました。

この「気づき」が、文法的な処理を促し、正確な言語習得につながります。.


3. 会話による交渉:「インタラクション」の重要性

時期:1980年代〜1990年代

主要人物:マイケル・ロング(Michael Long)

単なるインプットやアウトプットではなく、「やり取り」そのものが習得を促進するという考え方です。

インタラクション仮説(The Interaction Hypothesis)

会話の中で意味が通じなかった時、相手に聞き返したり、言い換えたりする「意味交渉(Negotiation of Meaning)」が発生します。ロングは、このプロセスを通じてインプットが学習者のレベルに合わせて調整され、理解可能になることで習得が進むとしました。


4. 結論:効果的な学習の3ステップ

上記の主要理論(クラッシェン、スウェイン、ロング)を統合すると、科学的に推奨される学習プロセスは以下の通りです。

  1. 大量の「$i+1$」インプット
    • 自分のレベルより「少しだけ難しい」と感じる教材を大量に読む・聞く(多読・多聴)。
    • 不安を感じない、興味のある内容を選ぶ(情意フィルターを下げる)。
  2. アウトプットで「ギャップ」に気づく
    • 話そうとして「単語が出てこない」「文法がわからない」という詰まりを認識する。
    • 認識した直後に、正しい表現を確認する。
  3. インタラクションで修正する
    • 実際の会話やチャットで、相手に通じるか試行錯誤し、フィードバックを得る。

参考文献一覧

  • Krashen, S. (1982). Principles and Practice in Second Language Acquisition. Pergamon.
  • Swain, M. (1985). Communicative competence: Some roles of comprehensible input and comprehensible output in its development. In S. Gass & C. Madden (Eds.), Input in Second Language Acquisition. Newbury House.
  • Long, M. H. (1996). The role of the linguistic environment in second language acquisition. In W. C. Ritchie & T. K. Bhatia (Eds.), Handbook of second language acquisition. Academic Press.

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